潤う飲み屋(東京の酒場)
印象に残った飲み屋.酒は瓶で買ってつまみを作って飲むのが安上がりだがたまには奮発して外で.特に日本酒は同じ銘柄でも保存状態で雲泥の差になるし,ひととの出会いもある.後片付けがいらないことに甘えず,去り際を意識して飲みたいものだ.表は,「店名(ジャンル/立地/最後に訪れた年)」を示している.
<注>2002~2006に巡ったお気に入りの飲み屋への思いがベースです.以後,再訪や心に残る酒場との出会いをした場合に加筆していきます.
/☆Go Back☆/
・イーグル (ジャズ喫茶 新宿区四谷1-8 四谷駅徒歩5分 予算1500円)
新宿通に面したビルの地下は,オフィス街四谷の喧噪とは隔絶している.大音量で流れるジャズ,古ぼけたセピアを醸す店内,目をつぶったり文を書いている人.音と言えばジャズと小声の会話だけなのに,店を出たあと1枚の写真のようにどんなひとが座っていたか鮮明に思い起こせる.ひとの存在感が余韻として残る妙な空間だ.入り口の扉には18:00までは会話厳禁の張り紙あり.
サイドカー(カクテル)とバレンタイン(ウィスキー)を.サイドカーはコアントローという無色透明のオレンジリキュールとブランデーを合わせたもので,後味に渋みが残り1番好きなカクテルだ.
卒業式後の学科集会までの間に訪ねたりした.
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・魚三 (大衆酒場 江東区富岡1-5 門前仲町駅すぐ 予算1500円)
16:00の開店すぐに行き小一時間でさっと帰る.コップ酒2杯と刺身一品なら600円程度!魚屋が経営しているから安いのだ.あら煮は50円.エンガワ,ネギトロ,鯵のたたき・・目移りするほど壁一面に品が張られており,旬に合わせて食べたい.18:00過ぎに行くと相当待つことになる.
この字型のカウンターにびっしりと30人程度が座り,ほとんど目線を合わせてくれない店員2名が忙しそうに無駄なく動く.メニューは暗記,会計は暗算で接客業の1つの極致を見られる.店員との阿吽の呼吸がとれないと注文さえできない.
越中島にあるスポーツ新聞社でのバイト帰りに立ち寄っていた.出社前に行ったこともあったかな.
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・浅七 (酒亭 江東区富岡1-5 門前仲町駅すぐ 予算4000円)
日本酒を飲まない方はご遠慮くださいという内容の張り紙を掲げた居酒屋だ.隅に申し訳程度にビールが置かれているが,棚に陳列された保管の行き届いた日本酒たちが情緒ある渋めの店内で輝いている.酒肴に頼んだ湯豆腐とまぐろづけは,シンプルだが粋な味でほどよく舌に絡んだ.
ご主人は藍の着物をしゃっと着こなし,なんともかっこいい.大七や群馬泉,浦霞を「温めた方がおいしいですよ,いやこっちは常温で」,と的確なアドバイスで飲ませてくれる.温めた方が,の勧めに,調子に乗って「ぬる燗」と言うと,熱燗と言ってよい具合で出てきた.反省.
隣の女性二人組の客に年を聞かれ答えると,「若いのに,一人でこういうところ来られて羨ましいわぁ」と.まこと,贅沢です.が,20歳超えたら酒場で歳に意味なんてあるんだろうか.
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・母屋 (焼き鳥 南池袋1-12-6 池袋駅徒歩7分 予算3500円)
秋田「刈穂」が飲める.それを薩摩軍鶏の塩焼き,つくね,レバーなど,大降りな1本200円台中頃の焼き鳥と合わせる.にくのほどよい塩,油加減,歯ごたえあるうま味に,酒がとろみを加え,渾然一体なる至福が口いっぱいに広がる.ほどよくおさえられた照明の店内には皆がほおばる熱気が溢れ,食が進む.しめに定番の親子丼や雑炊などご飯ものは食べず,焼き鳥と日本酒,大皿に盛られてくるサラダだけで帰る.
ただグルメ本によく掲載される有名店なので,満席で列をなしているのが味の証明とはいえ難点だ.
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・もつ平 (焼き鳥 品川区平塚2-16-13 東急戸越銀座駅徒歩30秒 予算2000円)
東急池上線戸越銀座駅の裏路地に灯る赤提灯,店先に行くと,もつの字,炭の香り,すすの色,店内から聞こえる心地よい談笑のトーン.思考する間もなく,反射で,手が引き戸にかかる.備長炭使用の札,焼き場におかれたくすんだヤカン,焼き場のまわりにこびりついたすすの花.いいナァ.椅子にちょこんと座る.
てっぽう,しろ,がつ,なんこつ,レバー半なま,どれも1串90円や100円,かむほどにうまい.煮込み,本ページにも記した三大煮込みのような個性はないが,落ち着いた,しみじみと酒の脇役.北海道生まれのマスタこだわりのジャガバターや炭で焼くししゃも,香ばしい.日本酒1杯300円程度,昔ながらの錫製の熱燗器をくぐらせ,酒たんぽでコップになみなみ注いでくれる.程よく飲み食いして,気のいい常連さんや,マスタと競馬なんかの話しをひっかけて2000円.酒肴で焼鳥は特に好きだけど,ここはマイ・ベスト3に入ります.素晴らしい.
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・第二力酒蔵 (酒亭 中野5-32-15 JR中野駅徒歩5分 予算3000円)
真っ昼間から堂々と酒が飲める.そんな時間から若い女性客もみかける.いや,こてこての酒場に行く若者は,男性より,女性が多い気がする.男がひより,女がたくましい,いや,荒んでいるからか.酒場に来るカップルはたらたら時間かけて,少しだけ酒飲んで,場のムードを楽しまず,と言った迷惑な傾向が強いが,女の1人や2,3人客は,飲みなれたもので,酒場の景色に花を添えている.
第二力酒蔵は,内装は安酒屋と変わらないけれど,壁にかかった札に並ぶ値札は高い.刺身は軒並み2000円級.横目でおじさんの皿を見ても,割とこぶりである.おすすめは生牡蠣,オオブリの5殻で1000円程度.これで日本酒2合程度流して,よい客層を眺めながら,きりっと引き上げるのが一つの楽しみ方であろう.ひっきりなしにかかってくる電話に,店主が「力でございます」と,応えるテンポが名物.
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・御膳房 (雲南料理 六本木6-8-15 六本木駅徒歩5分 予算4000円)
店を目指し芋洗い坂を下っていくと期待が高ぶってくる.この店は東京で唯一の雲南料理店だ.料理は中国最西南端に位置する雲南の地の恵みをそのままに,少数民族が暮らす山地の薬膳とキノコを活かした炒めもの,田の育みである過橋米線(鶏ガラスープベースの米の麺)が楽しめる.さっぱり味でおいしい.店員も民族衣装で店の雰囲気を醸す.
酒は中国の米焼酎,白酒(パイジュー)が飲める.瓶は下のような形状で,Xに入っている酒をAからコップに注ぐ.飲み終えたあとは半分ほど水を入れ,Aの先端に葉っぱをセット,Bからごぼごぼと水を通して息を吸いながらAの葉っぱに火を点けると,水をフィルタ代わりに,水タバコに早変わりする.酒瓶一本空ければ吸わせてくれるが度数は40度強でハード!!.
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・神田まつや (蕎麦 神田須田町1-13 秋葉原駅徒歩8分 予算2500円)
店構えが素晴らしい.木造のたたずまい,暖簾をくぐると60人は入ろうかという店内は広々としており,客層の良さと相まって店の格を感じる.女性の店員さんの対応もきびきびとしていて嬉しい.いつ行っても混んでおり,閉店も20:00と早いので,2人程度の少人数で訪れたい.
熱燗を,絶品のつまみ,やきとり,棒鰊,鳥わさのいずれかで進め,もりそば2枚でしめれば,満足ここにありの気持ちで帰れる.冬はもりの代わりに,ゆずを練り込んだゆずそばが角のたったのどごしにさわやかな風味を加え楽しみな味だ.
海外から帰ってきたら,日本の食,蕎麦と日本酒を求めまっさきに訪ねたくなる.
2008年の暮れ,12月29日の開店間際に訪ねた.さすがの行列だったけれど,一人で行ったため,グループ客を飛び越してすんなり席に潜り込めた.年末は,注文受けてから作る焼鳥と行ったつまみはなし.トリワサ,日本酒2合に盛りそば,とマイ定番を食し,変わらぬ味,店員の客さばきに満足した.ただ,客層(というか客の店での振る舞い)にムラがあったのはやや残念であった.
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・闇市倶楽部 (ホルモン焼 品川区上大崎2-27-1 目黒駅徒歩5分 予算5000円)
明け方まで開いているのが嬉しい.ただし人気店なので予約は必要だ.壁一面に日本ハムの選手をはじめ有名人の色紙がかけられ,客の気分をもり立てる.まず出てくるのはわさっと盛られたキャベツ.ピリ辛のドレッシングを滴らせれば,しゃきしゃきと,それだけで一品になる.
コプチャン,タンスジ塩,レバー,ゲタカルビ,ホルモン盛り合わせ.肉は新鮮そのものなので「レアー党」で通したい.焼いて食べての繰り返しが楽しくなってくる.網を何枚も換えてもらう.
酒はサワーや焼酎に脇目もふれず,ひたすらビールだけ飲む.韓国のマッカリも飲んだが好きな味ではなかった.店を出たあとの充実感と始発で帰る倦怠感のギャップもよし.
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・がってん承知の助 (焼酎 四谷しんみち通り,寿司纏(まとい)前の地下 四谷駅徒歩5分 予算3500円)
焼酎の品揃え,その1本1本に対する店員の知識の正確さ,共にすごい.緑茶やアロエ焼酎など珍品も揃える中,まずはオーソッドックスに芋,伊佐美をお湯割りで.香りが立っている.伊佐美が幻の焼酎と呼ばれるようになって久しいが,いつ行っても飲めるのは嬉しい.創業以来黒麹を使い,1次仕込みはかめで,という真摯な姿勢が人気を支えているのだろう.甘みとこくがあるなと感じられて,うまい.後は店の人気焼酎ベスト5の黒板に従い,上から飲んでいく.山猫もうまかったなぁ.
つまみは馬刺や角煮など,焼酎のお供たる内容で,どれも味に角がなく馴染む.昼のランチも豚の生姜焼きに生卵,納豆,のり,みそ汁がつく充実ぶりでお勧め.
しばらく店名が変わっていたようだが,2008.12.29に前を通ったら,懐かしの「がってん承知の助」に戻っていました.もう少し四谷三丁目方面にいった,ラーメン「こうや」に,雲呑と紹興酒を求めてたまに行くが,何分,昼間.再会を確かめに,また行かないと.
2009.05.30に麹町の囲碁大会参加後,四ッ谷まで歩いて立ち寄った.しっかり,焼酎の店「がってん承知の助」として店が開いていた.マスターに聞いたら,「店名はずっと変わってませんよ」とのことなので,見間違いだったのだろうか.つまみは,カウンターで横に座った焼酎マニアの客から拝借して,焼酎のロックを飲み続ける.「八幡」「田倉」「八幡ろかせず」「花と蝶」..
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・たん焼忍 (牛タン 新宿区三栄町16 四谷駅徒歩12分 予算3500円)
大学帰り,17:00の開店に合わせて気の合う友人数人で行くのが楽しみだった.BSEなんて頭から離してタンを堪能する.
品数は豊富だが,注文後すぐ出てくるタン生姜煮で一杯目のビールを空け,後はたん焼をひたすら食べる.付け合わせの絶品漬け物で呼吸を置きながら,ビールとタン,お湯割りとタンの組み合わせを楽しみ,腹にたまってきたら,胡椒がきいたとろとろの「ゆでタン」を食す.振り返ると,酒がよく進んでいる.
タン自体新鮮なよいものを使っているのだろうが,仙台の牛タン同様,タレのうまさで他と一線画している.仙台では利休が絶品かな!!
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・秋田屋 (大衆酒場 港区浜松町2-1-2 浜松町駅徒歩4分 予算2000円)
17:30,浜松町駅から貿易センタービルの脇を通り大門方面に歩く.すぐに会社帰りに一杯引っ掛けているサラリーマンがビールと串を両手に,楽しそうに店を囲んで立ち飲みしている姿が目に入る.皆元気そのもの.
瓶ビール550円,富山名産ホタルイカ400円,煮込み豆腐400円に続き,たたき(店特製の肉団子串,注文は一人一本まで)220円,冷酒(秋田高清水)350円を注文して帰る.立ち飲み酒場としては値は高いのかもしれないが,煮込み豆腐にテーブルに置かれた一味唐辛子をスプーンで4すくい散らして食べるのは,しみじみうまい.店の活気,店員の目配りも嬉しい.
私は店内の腰掛けに座って飲んだ.開店は15:30で,日祭日は休み.
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・山利喜 (煮込み 江東区森下2-18-8 森下駅すぐ 予算3500円)
赤い提灯が目印.誰が言い出したか自然と浸透している煮込み御三家の一軒だ(他に月島「岸田屋」と北千住「大はし」).
まず煮込み480円をがっつき,間に冬季限定のねぎま鍋や,居酒屋らしからぬスペアリブ,レバテリーヌを挟みつつ日本酒を飲む.日本酒は醸し人九平次(四谷の酒販店,鈴伝の2002年のお勧めだった)酔鯨,東一,磯自慢など堂々のセレクトだ.そして最後に煮込み卵入りに,ガーリックトーストを浸して締めれば,身も煮込み並みにとろとろにほぐされて帰れる.席は2階が落ち着く.
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・岸田屋 (煮込み 月島3-15-12 月島駅10分 予算2000円)
近所さんならいざ知らず,月島に行ったら,せっかくだからと,昼からビールでもんじゃ,次いで,ウーロン杯でもんじゃ.17:00開店の岸田屋の席につく頃には,腹が膨れ,酒が回りはじめている.そこへ来て,東京3大の枕詞がつく煮込みは,濃厚,うま味凝縮,こってり,と,空きっ腹に酒としみいる味に仕上がっている.昼間とっておいた日本酒をお供に,僅かな腹の隙間に,流し,そして,滑り込ませる.それはそれでオツなのだが,如何せん余裕がない.
コの字型カウンタのレイアウト,且つ,老舗酒場ということで,必然,中高年の1人or2人組の男性客ばかりで,いかにもと言った雰囲気.かと思えば店員の女性は"べっぴん"という形容がはまる,妙齢.目も楽しめる酒場である.
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・大阪屋 (煮込み 門前仲町2-9-12 門前仲町駅3分 予算2000円)
東京3,ではなく,5大煮込みとなると数えられている.が,煮込みというよりは,名古屋のどて煮.串にささったモツをとろとろに煮込んで供する.色はぎょっとするほど,黒茶けているけど,味は奥深いあっさりさ.一人10串くらいはぺろりと皆,平らげている.そしてどて煮の主役は,卵!.味がしみた丸ごとどてに浸かった卵は,口のなかでぼろぼろほぐれ,乾燥を運び,酒を呼ぶ.
数席しかないので,酒が,この店のどて煮が好きな常連が集まってきて,味,酒と共に,常に同じ雰囲気を作っている.切り盛りする女将はおっとりとした物腰で,人当たりがよさそう.門前仲町のような,古き良き町にいつまでも残って欲しい店であって欲しい.
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・鹿角 (秋田・きりたんぽ 西麻布1-15-16 六本木駅徒歩15分 予算5500円)
鹿角は秋田の東北部,内陸に位置する.秋田人は金に対し豪放,山形人は堅実と聞いたことがあるが,これは秋田には旨いものが山ほど表した例え言葉だ.秋田小町,日本酒,はたはた(ブリコ),比内鶏,八森メロン・・・.
酒は地名,店名に冠された「鹿角」を常温でいただく.10種ほどのおちょこから選ばせるのがよい.人それぞれ好みの口回り,姿は違う.背の低い,口の広いおちょこをセレクトした.ここに漆塗りの酒入れから,とろりとろりと注いでは飲み,飲んでは注ぎ.白舞茸の焼き物が最高の酒肴となってくれる.締めは比内鶏を底にしき,出汁十分に運ばれてくるきりたんぽ鍋.面前で鹿角出身の女将が作ってくれる.それをほくほくと頬張る.結局,稲庭うどんまで余力残せぬ満腹だった.
12年前の開業以来のごひいきという女優仁科明子にも出会えた.
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