高校球児とビールと共に

高校野球が好きだ.小学校の少年野球チームでピッチャー(ただ練習で投げすぎて肘の骨が折れたが)だった「元エース」として,物心ついた頃から,ソファに足を投げ出して,ぐったり,まったりとテレビ観戦をしていた. 今でも特に,鮮明に頭に焼き付いているのは,2000年夏の智弁和歌山だ.3番:竹内(左),4番:池辺(左),5番:後藤(右),6番:山野(右)の打線は,投手に目が慣れた終盤8回(裏)に,計ったように必ず打順が回ってきて,投手力に不安があり序盤は大概リードされているチームを,長打の連続で逆転して,それを続けて,結果優勝した.中でもクリーンアップが終わった後の山野,打球がぐんぐん伸びる長打力はすごかった.ようやく甲子園で高校野球を生で観戦する機会を作ったわけだ.朝早くの新幹線で新横浜から新大阪へ,東海道線で大阪/梅田に出て,阪神電鉄でいざ甲子園球場に向かう.梅田の阪神電鉄の乗り場に向かう途中,地下への階段を下りたすぐ脇に立ち食い/呑みの串カツ屋(松葉)があり,景気づけに寄りたかったけれど,満杯.少しうろうろして戻ってきても,やはり,満杯.後ろ髪引かれる思いで,甲子園に向かった.どうせ雰囲気ある串カツ屋など,伝統ある甲子園のまわりにごまんと出ているに違いないのだ.

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甲子園駅のホームに降りる.例のごとく帰りの切符は「今」買っておくようにとアナウンスを連呼している.ふー,暑いな.高速の高架橋をくぐり球場が視界に入るが,安っぽい出店しか出ていない.何より,ビールの文字が見当たらず,もの凄くがっかり.高校野球の開催期間だから酒の香りを抑えているのであって,阪神戦のナイターだと一風違うのだろうか.バックネット裏のチケットは売り切れていたが,内野自由席で十分で,値は1,200円と高くない.入場前にスタジアムの外観を見ながらぷらぷら歩く中,依然として酒を出す出店がないことは既に諦めているとして,甲子園と聞けばイメージする,蔦(つた)が絡み付いた,あのいかにも伝統ある甲子園の顔はなく,安っぽいレンガ模様やらの造りに変わっていて,初訪問ながら,なんだか寂しい思いがした.

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1塁側の前の方に陣取る.グランドに近いほど,バックネットの上を覆って伸びる屋根がかからないので,日差しが直接降り注ぎ,暑い.だからにわかファンは,暑さに負けてすぐ退散してしまい,比較的空席がある.帽子,首の裏を日光から守るタオル,水分,団扇など,熱心に観戦する準備をしてきた常連だけが座っていられる,日中の甲子園観戦の特等席である.ビールがうまくなる!という一心で,額の汗を拭い拭い拭い拭いして,高校球児の躍動を,空きコップを次々に重ね重ね重ね重ねたコップを片手に眺める.雲はぐわんと張り出していて大きい.この形容はなんとも淫微さがあり,官能小説を思わせ,なかなか好きなのである.

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観戦した試合は,前橋商業(群馬)が,宇和島東(愛媛)に3−0で勝利した.初回に2点先制した前橋商業が逃げ切った格好で,2回途中から観戦したらので得点シーンは1点しか見ることが出来なかった.前橋商業の小柄な左腕,野口の制球力抜群のストライクが先行するテンポいい好投で,宇和島東は見せ場が作れなかった.元エースであり,フォアボールで自滅することが多かった身としては,1ストライク−1ボールのカウントからストライクを簡単に取れる重要さが,見ていてよく伝わってきた.でも,全く崩れたり,打たれたりしなそうに見えた,そんな野口擁する前橋商業も,2回戦では北大津(滋賀)に9点取られて乾杯しているのだから,力関係は分からないものだ.見方を変えれば,プロスカウトの価値が上がるということかもしれない.テレビで聞き慣れた,ルパン三世などのメロディに乗った応援,「宇和島東と言えば伝統校で,愛媛は最近だと済美など強いはずなのになぁ」と,うなづける呟きをするおっちゃんの観客など,とても楽しめる観戦だった.何より,プロ野球と違い,1試合が2時間程度で終わる.テンポのよさは見ていて気持ちがよかった.

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次の試合を戦う遊学館(石川)らしき応援団に遭遇♪

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神戸・元町の中華街.事前リサーチでは,味噌だれの餃子がリストアップされていたので,餃子&ビールの鉄板を求めて炎天下をふらつく.割と隈無く歩いた感触として,規模は横浜・中華街の四分の一程度か.中華料理屋ではなく,細い路地に居を構える鰻屋に列が出来ているのが,面白い観察だった.元祖ぎょうざ苑で餃子&ビール&紹興酒を呑む.新幹線ではビールの空き缶,甲子園でビールの空きコップを重ねた後にも関わらず,まだ,昼過ぎ.昼の酒は実にうまく,気分をとろとろとさせてくれる.味噌だれ餃子は想像通りの味といったところで,川崎の天龍を思い出させた.餃子好きの性(さが)か,分析好きの性か,1軒だけで神戸の中華街の味を判断することは出来ないという,都合のいい理論が頭をよぎり,中華街の中心に向かう途中に気になった,元町駅近くの餃子屋へ自然とゆらゆら足が向かう.そして,餃子だけだと物足りないからと,瓶ビールを注文.餃子にハズレはまずないけれど,ホームランも少ないな,と改めて思う味でありました.

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行こう行こうと思いながら,機会を作れなかった有馬温泉の御所坊旅館に泊まる.浴衣に着替えてまずは風呂へ.御所坊の風呂は,半露天・半混浴と表現すればよいか,なかなか趣向をこらしたつくりになっていて愉しい.内湯には鉄分を感じる茶褐色の湯がとうとうと溢れ,くねくねと外へ通路上に湯が続いている.その路を,湯の抵抗を心地よく足に感じながら歩を進めると,女湯もほぼ対称な構造になってており,最後,ばったりと,半露天のひらけた空間で出会う!,嬉しい仕掛けが待っているのだ.湯は水際少しを余韻に残して体が透けない濁り具合だし,名が通った高級旅館の客は概して品がいいことも相まって,素敵な風呂であった.風呂上がりに温泉街をぷらぷら歩く.途中,風呂上がりのビールをいただきながら,共同湯も楽しみ,宿に戻った頃には,朝からの酒量がこたえて,既に酔いどれである.我家の料理を意味する山家(やまが)料理を食べながら,馳走には酒だ,と,丹波・西山酒造場の「大吟醸・心楽小鼓」の4合をとどめに,明細を後ほど見て,その後呑んだはずの熱燗も記憶に残らないまま寝てしまった.仲居さんには迷惑をかけたようで,品のいい客ばかりとは言わせられなくなってしまい,猛省しきりである.翌日は,ちゃんとした日本の朝ご飯をいただき,大好きな御所坊の朝風呂を名残惜しくも浴びて,KOBE COUNTORY CLUBにて華と月を愛でて愉しみ,明石で玉子焼きをいただき,十三のやまもとですじネギ焼きとうどんをすすって,無論,各所でビールに日本酒は一切はずさずに,充実した五臓六腑と心持ちを携え,家路についた.
ぷはーっ.

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