名古屋マリオットアソシアホテルで短編のような一夜

associa_1

森浩美著「完全推定恋愛」(双葉文庫)の短編『夏畳』から引用する.

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「ルールを破るようで悪いんだけど,今度は泊まりで温泉につきあってくれないかな?」
 彼とはまだ数回しか会っていない.でもなんとなく,肌が合うというのだろうか,彼との相性はよくないように思える.結局私はうなずいてしまった.実際,彼は私の本当の名前すら知らない.
「でも,誘った一番の理由は,君を気に入っているってことかな」妙に柔らかい響きだ.
「責任のない関係ですものね,フフフ」と私は少し意地悪く笑った.
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associa_2

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 和服を着た若女将たちが「お帰りなさいませ」と出迎える.彼女たちにはどんなふたりに映るのだろう?
「とりあえずお風呂に入ろうか?」彼はそう声を掛けた.私は「ええ」と答えた.
 お風呂から上がって部屋に戻ると,彼は「ここに座って」と畳を指さした.
 彼は私の腰に手を回し「いい香りだ」と愛撫し始めた.浴衣を通して指の感触が前回会ったときより強く感じられる.
「待って,だめ....」
「ううん,このままで」彼は私を覆った.
 私は声をあげた.
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associa_3

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 真夜中,誘われるまま露天風呂にふたりで入る.石灯籠の灯だけが頼りだ.
 お湯に浸かると肘と膝がしみた.彼は私を静かに抱きかかえる.一瞬本気だと錯綜しそうな罪深い肌触りだ.たぶんこれが彼の言う”面倒”の入り口なのかもしれない.
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associa_4

本当の名前すら知らない,2年で2度しか会っていない,でもそんな関係が気に入っている,責任の無い関係の彼女とメールでやりとりをして,数日後,名古屋マリオットアソシアホテルの鉄板焼で待ち合わせる.メインバーとコンシェルジュフロアのラウンジを経て,女性コンシェルジュたちの脇を,どんなふたりに映るだろうか,と想像しながら通り過ぎ,デラックスダブルの部屋へ行く.夜景を背にして窓際のソファに並んで腰掛け,最初は足の指先でじゃれ合い,そして,腰に手を回す.シャワーを浴び,後ろから包むように混浴して,バスローブに身を包んだ男女はベッドへなだれ込む.次第にバスローブは開(はだ)け,意志を伴って床に投げ捨てられ,長い夜は続く...そんな短編のような”面倒”の入り口の夜が,たまにはあってもいい.

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